「これは、先生、どちらへおでかけで?」
「おう、あまりいい天気なので、そこらを写生してこようと思ってな。」
蘇東坡は、答えてから、
「それはそうと、えらい人だかりじゃが、天子さまでも、お通りなのかね?」
と、たずねました。
「いいえ、そうではありません。むこうに小さな居酒屋がありましょう。あの、青い旗がでている家です。5、6人立って、のぞいているでしょう。あっしらは、あの店から出てくる人を見ようと、待っているのです。」
「よっぱらいでも、出てくるのかね?」
「よっぱらいどころか、居酒屋とみれば、かたっぱしから飲んで歩いて、そのくせ、けろっとしているって話ですよ。それも、きのう、どこからともなくやってきて、都の入り口の居酒屋から飲み出したというから、たいへんな老人です。」
「ほう、老人かね。」
「へい、九十だか、百だか、見当も付かないくらいで。しかも変わった老人だって話ですよ。何を話しかけても、ただにこにこしているばかりで、どうも言葉が通じないらしいんです。」
「やっ。出てきたようだ。先生もごらんなさい。」
蘇東坡も、つい、好奇心にさそわれて、見物の仲間入りをしました。

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