「定斉屋でござい」と、夏の真っ盛りを暑いのに帽子もかぶらず日焼けした顔で重そうな薬櫃をガチャガチャと鳴らしながらゆらして担ぎ、夏負けしない薬を売り歩く商人だ。僕の家の前の風呂屋さんの塀からしげって出ているイチジクの木の下で必ず一休みするのが常でした。(昭和2年)